研修会社が本の原稿を準備するとき、材料の件数だけでなく、一つひとつの記録が誰についての情報なのかを確かめる必要があります。別の著者の話を自分の経験に移したり、今後の予定を完了形に変えたりすると、元の説明とは異なる主張になります。本稿では法人研修の出版相談を題材に、原稿へ移す前の点検方法を整理します。
先に確認したいこと
- 人数や件数には、その数字の対象を書き添える。
- 外部の出来事の紹介と、著者が加える論評の境目を残す。
- 予定を表す言葉は、裏付けがないまま完了形に変えない。
- 材料を整理する作業と、実施記録を増やす仕事を混同しない。
以下の表や点検順序は、この記事で提案する編集の枠組みです。面談で決まった制作手順や、出版を実現するための必須条件として紹介するものではありません。
一つのメモを「自社事実・外部事例と論評・仮説」に分ける
文章の前に情報の所属を決めると、他者の話や予定を自分の成果へ置き換えていないか点検できます。分類名だけを付ければ正確になるわけではないため、元の資料へ戻れる手掛かりも残します。
今回の研修事業者は、本作りを社内知見の言語化につなげたいと考える一方、勢いで進めて仮説を実績のように書くことを懸念していました。三橋は材料がそろった段階で構成整理を手伝える旨を説明しています。サービスを磨いて事例を蓄積したいという本人の意向を、出版の遅れや消極性と読み替えることはできません。
| 分類 | メモに残す情報 | 原稿へ移す前の点検 |
|---|---|---|
| 自社事実 | 自分たちが行ったことと、その記録 | 実施の記録なのか、成果の記録なのか |
| 外部事例と論評 | 他者の出来事の出典と、自分の考察 | 出典が報告した範囲を越えていないか |
| 仮説 | これから試したい案と、その理由 | 予定・期待・推測が文章に残っているか |
たとえば研修案を作った記録があっても、開催した証拠とは別です。開催記録があっても、参加者の業務が改善した証拠とは別です。この例は確認すべき違いを示したもので、面談の事業者がいずれかを達成していると認定するものではありません。
「1社」の前後を残し、数字の持ち主を変えない
面談に登場した1社という数値は、別のデザイン著者について三橋が説明した値です。研修事業者の受注件数ではなく、独立した検証資料で確かめた数でもありません。
その紹介は、自分の経験と外部の事例を専門的に読み解いて本を構成した、という内容でした。この紹介を受け、相談者は自社事例に加えて他の事例を収集する方向に納得した。ここで参考にできるのは材料の集め方です。他者の経験を参照したことと、自分も出版できると判断したことは区別します。
編集時には、数字だけを抜き出す前に次のように分解できます。
| 記録に残す項目 | 今回の1社という話で確認できる範囲 |
|---|---|
| 説明した人 | 三橋による別著者の紹介 |
| 数えた対象 | その著者の企業向けデザインの直接事例 |
| 数字の扱い | 面談で説明された数値。独立検証なし |
| 転記してはいけない意味 | 研修事業者の受注件数、出版の必要最低件数 |
1社の事例で十分だ、同じ数なら同じ構成で本が出る、と一般化する根拠はありません。また、その別著者が本稿の分類表を使ったから出版できたという因果関係も確認されていません。
別業種の紹介は、成果を借りずに着眼点を読む
飲食店の紹介も、この研修事業者自身の経験に混ぜないことが必要です。素材には、2店舗目を増やす選択肢に対し、キッチンカーのフランチャイズを検討してもらう書籍案が、別事例として登場します。
紹介されたのは、新店舗を増やす負担と、既存店舗の材料を生かした移動販売を比べる構成でした。売りたい事業から読者を逆算する例として説明されています。研修事業者が飲食店を経営している、移動販売で売上を伸ばした、という意味ではありません。
このような紹介から着眼点を得る場合も、借りるのは問いの立て方までです。他業種の成果や経歴を自社のものにせず、どこからが自分の考察かを区切ります。素材にない販売結果、採算、受注数を補って成功談に仕立てることはできません。
外部事例は自社実績に置き換えず、出典と専門家としての論評を明示する必要がある。まず出典の説明を要約し、その後に考察を置く形式なら、読者が両者を見分けるための手掛かりになります。ただし要約の段階でも、元の意味を変えたり、発言者が述べていない断定を加えたりしない点検が要ります。
「年内・翌年」を達成報告へ書き換えない
予定を含む一文では、いつの見通しなのかを残します。今回語られたのは、サービス方針を年内に固め、翌年に契約と事例化を進める見通しでした。面談後にそれが達成されたという記録は、ここでは得られていません。
| 原稿で点検する箇所 | 避ける読み替え |
|---|---|
| 方針を固める予定 | 方針が確定した |
| 契約へ進める見通し | 契約を獲得した |
| 事例化していきたいという意向 | 効果が確認された事例を保有している |
この表は書き換えの誤りを見つける例で、本人の言葉の逐語引用ではありません。面談の時点を明示し、後日の記録がなければ、その後の結果を想像で埋めないようにします。
別の著者の紹介、本人が語った将来計画、編集者が示す整理案を同じ文体でつなげると、すべてが実施済みの話に見えることがあります。主語だけでなく、文末の「予定」「提案」「説明した」という違いも残すことが、原稿確認の要点です。
原稿に使う前に、記録ごとの不足を一覧にする
資料を増やすときは、件数だけを目標にせず、どの記述の裏付けが欠けているかを一覧にする方法があります。これは編集上の準備案で、研修事業者が実行済みの手順ではありません。
- 対象:誰についての話か。自社と別著者の経験が混ざっていないか。
- 出典:元の記録を参照できるか。伝聞なのか、著者が自分で観察した情報なのか。
- 範囲:実施した事実と、効果についての判断を分けているか。
- 時点:発言当時の計画か、その後に確定した報告か。
- 保留事項:分からない欄を推測で埋めず、確認すべき点として残しているか。
例えば、出典はあるが結果の確認がない材料は、その結果を断定する段落には使えません。一方で、誰がどのような考え方を紹介したかを説明する材料にはなり得ます。使う場所によって必要な裏付けが変わるため、メモがあることだけで掲載内容を決めないようにします。
本人が事例を増やしたいと考えているなら、その仕事を続けながら整理できます。分類表が完成しても、サービスの検証が完了したわけではありません。今すぐ出版するかどうかは別の検討であり、整理作業を出版を急がせる理由にはしません。
書籍を説明資料として配る際の動画案は、法人研修の動画営業資料で扱います。本稿の点検は、その動画原稿に載せる情報にも応用するための整理案です。
よくある質問
Q. 外部の事例を集めれば、自社の事例が少ない問題は解消しますか?
A. 外部の紹介と自社での実施は別です。第三者の報告を読み解く材料は増やせても、自社の成果が増えたことにはなりません。何を裏付けたい段落なのかに合わせて、使える範囲を点検します。
Q. 年内・翌年という予定は、古い情報として消すべきですか?
A. 消す前に、その時点での意向を説明するために必要かを判断します。残す場合は面談当時の見通しとして記載し、更新した結果がなければ達成報告に変えません。新しい記録を確認できた場合は、以前の予定と後日の事実を分けて整理します。
Q. 手元のメモだけでは、どこまで書けるか判断できません。
A. まず対象・出典・時点を付け、確かめられない項目を空欄にしておく方法があります。本にできる量かを判断する前に、説明できる内容と不足している根拠を見分ける準備です。相談する際も、完成した原稿に見せるより、保留点を残した資料の方が確認事項を共有できます。